モルモンは、いわゆる伝統的キリスト教（カトリック、プロテスタント）とは異なります。

モルモン教会はその正式名称を「末日聖徒イエス・キリスト教会」と言い、その名前にあるように、自らを回復されたイエス・キリストの教会と主張しています。

回復された教会とは次のような意味です。聖書に書かれているようにイエス・キリストは復活され昇天された。その後、使徒たちの時代にキリストの教会が存在していた。しかし、迫害と背教が起こり、やがてこの教会からはキリストから与えられていた真理と権能が失われた。聖書は残ったが、人々はその内容を思いのままに解釈したので分裂し、今日に見られるような様々な宗派ができた。このような状況の中で、イエス・キリストはジョセフ・スミス・ジュニアにご自分の教会を回復するよう啓示を与えられ、こうしてかつてのイエス・キリストの教会が回復された、というものです。

したがってモルモンは、自らこそが「唯一の本当の教会」と主張する立場をとっています。この教義とあいまって、他の教会は「すべて誤っている」「悪魔の教会」と明記されている個所が、モルモンの聖典であるモルモン書などにあるため、当然のことですが伝統的キリスト教会からは激しく非難されています。

このような設立の過程以外にも、モルモンの教義や信条などを見てみれば、伝統的キリスト教とは全く異なる部分がたくさんあります。たとえば、伝統的キリスト教は、三位一体を信じていますが、モルモンでは天の父なる神、御子イエス・キリスト、聖霊は別の存在であると信じています。また聖書以外にも、「モルモン書」、「教義と聖約」、「高価な真珠」などの聖典があります。

以上のことから、カトリックやプロテスタントを伝統的キリスト教と呼ぶならば、モルモンはキリスト教に分類されたとしても「異端」であり、むしろキリスト教とは異なる「別の宗教」と考えるほうが的確であると言えます。ただ、正式名称にイエス・キリストの名を使っていること、独自の理解ではあるがイエス・キリストを信じていることから、一般的にはキリスト教に分類されています。

個々のモルモン教会員が持っている感覚は人によって様々ですが、「これは本当の教会で、自分たちはクリスチャンだけれども、世間には理解している人が少なく、反対している人もいる」というものではないかと思います。

近年、伝統的キリスト教は互いの宗派、教派の相違を尊重し、理解し合う方向へと進んでいます（いわゆるエキュメニカル運動）。モルモン教会も伝統的クリスチャンとの接触を試みてはいますが、あまり進んでいないようです。他の教会を受け入れない教義を持ちながら、自らの正当性を主張しているわけですから当然であると言えます。

しかし、たとえばモルモン教会が「唯一の教会」という主張を取り下げたとしても、キリスト教とは受け入れられないでしょう。と言うのは、2000年5月に、ユナイテッド・メソジスト教会は、末日聖徒イエス・キリスト教会はクリスチャンの一派でないという立場をとることに賛成したそうですが、その理由は、モルモン教会に「神の性質と存在、イエス・キリストの性質と出生と目的、救いの性質と方法といった信条の中に見られるいくつかのラジカルな異なる教義」が存在するためのようです。同じような見解は長老派教会（アメリカ）と南部バプテスト教会もすでに出しているそうです。つまりモルモンが否定されている理由は、「唯一の教会」と主張している独善性より、むしろ、神やキリストや救いといった根本部分についての「特異な教義」にあるようです。

モルモン教会の主張が全て正しいとするならば、すでに「キリスト教」の名称で存在していた教会は全て間違っているわけですから、モルモン教会がその間違った宗教の一派に分類されるように求めるということは、矛盾しています。しかし、もしモルモン教会が伝統的キリスト教会の業績に敬意をはらっており、自らもその中に加わりたいのであれば、まずその排他的独善的な教義をなんとかしなければならないでしょう。

実のところ、その方向にモルモン教会が徐々に進路変更していると感じる部分があります。モルモン教会では教義や方針の変更は今までもあったのですが、大抵の場合、昔一般的に教えられていたことがいつのまにか口にされなくなり、気がつかぬ間に別のことを主張しているという方法が取られます。この理由が教会員の混乱を避けるためなのかどうかはともかく、このような方法を取っているため、モルモン教会員よりも外部の人間のほうが教会の態度の変化には気がつきやすいようです。

一つの例をあげると、モルモン教会の2000年度版日曜学校教師用手引きによれば、モルモン書に書かれた「悪魔の教会」とは特定の教会や団体を指すのではないと解釈しています。

このようなゆっくりとした態度の変化を非公表に行うことは、モルモン教会員の中に何の疑問も混乱も起こさないままに教会を方向転換することができる効果的な手段ではあります。しかし不誠実と見なされるの間違いないでしょう。モルモン教会がより一般に受け入れられる方向に態度を変更することに反対する教会員は少ないと思われます。ゆっくりとした変化は時間と労力の浪費でしかなく、明確な態度変更を表明する方がはるかに良いように思われます。